ハマイチ(浜名湖一周)は約57㎞、私の家から行けば、往復20㎞ぐらいが追加される。天気予報は、昨日まで晴れだった。夜、ロードバイクのチェーンまわりにオイルをさし、タイヤに空気を入れた。そして、サイクルウェアを机に置いて、雨の音を聞きながら横になった。翌日の天気予報は曇り所により雨、雨雲レーダーの予想では雨は浜松方面に集中して、浜名湖にはかからない見込みだった。
朝9時、近くの中学校前でHさんと待ち合わせる。私より一回り若いHさんはロードバイクに関しては大先輩で、瞬発力、登攀力も、私は到底及ばない実力者だ。Hさんとは娘さんの絵のことで知り合いになって、時々ツーリングに付き合ってくれるようになった。娘さんの絵は、不思議な魅力がある動物の絵で、切り取られた四角い空間の向こうにも、物語がつながっている、精神の広がりを感じる絵だ。
二川の火打ち坂を下り、立岩街道を西へ、時速30㎞を切るぐらいの速さで、快適にまっすぐ進む。時々、娘さんのことを話しながら走っていると、やがて、霧雨が落ちてきた。新居の関所跡で自転車を降りて、うず巻きのお店による。お店のおじちゃんに、餡子入りを頼むと、作りたてを手渡してくれる。1個200円。まだ暖かいのを、ウエアのポケットに突っ込んで、弁天島の海浜公園まで走る。雨は上がったが、厚い雲が流れている。東海道本線と新幹線が並走する道。時々、新幹線の白い車体が、空気を切り裂くような音をたて、過ぎていく。新幹線といえば、妻は新幹線が大好きだったなあ。妻が喜ぶから、病院への道は、いつも新幹線の高架が見える道を選んだ。新幹線を見かけた日は、いつも診察結果がいいと、子供のように喜んでいたっけ。いくつかの橋を抜け、海浜公園に到着、自転車を置いて、うず巻きを食べていると、目の前を、かなりの勢いで潮が流れていた。浜名湖は人が立てるほどの浅瀬も多いが、今切れに流れが集中するため、潮が動くときは、渦巻きさえできる。ああ、このお菓子は、そういう意味か。納得して、うず巻きを食べる。あっさりとした味わい、行動食にはちょうどいい
休憩後は、弁天島駅横の線路をくぐり、浜名湖の懐を北へ舘山寺へ進む。アップダウンがないので、快適な走りが続く、やがて少し長い坂を登りきると、細江に下る道、今日のランチは、西気賀駅の駅舎で営業しているフレンチレストラン、浜名湖の地魚フライの盛り合わせが美味しい店だ、到着はちょうど12時ごろ、久しぶりだなーと思って、駅に向かうと、なんと本日休業。二人して、どうしようと顔を見合わせる。細江の町に戻れば、レストランはあるのだが、戻るという選択肢は二人にはないようだ。この先には鰻屋はたくさんあるが、人気店はお客がわんさかで、とんでもない。仕方がないので、高くて、味はいまいちだが、あちこちにお店を出している鰻屋が瀬戸口にあるので、そこを目指す。寸座を過ぎ、いくつかのアップダウンをこなすと、予想通り、お客がまばらな鰻屋に到着。注文の鰻がきて食べているうちに窓の外には雨が降り始めた。
雨にずぶ濡れになって、進むのは、嫌いじゃない。山でも、峠でも、暖かい雨が、シャツを濡らし、ズボンが足にまとわりつくと、大地と一つになって、溶けていく感覚が好きだった。一日の終わりが、旅の終わりであればなおさらだ、暖かいお風呂と、さっぱりとした着替えがある未来は、心もゆったりとする。浜名湖の湖畔から別れを告げて、立岩街道を水しぶきをあげて、走る、走る、走る。
火打ち坂を登り、Hさんと別れると、家はもうすぐ、全てが水をたっぷりと吸い込んで家のドアを開ける。熱いお湯を浴槽にそそぎ、濡れたウエアを洗濯機に投げ込んだら、至福の時間が、もうすぐやってくる。
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