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豊橋 街歩き2 記憶の風景(1)鳳来亭

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街には、もう立ち止まってしまったり、風景としては消えてしまった、そういった記憶がある。
神明町の豊橋信用金庫中央支店の南、市電に面した、今は空き地になったこの狭い敷地に、鳳来亭はあった。 とてもとても古い店だった。ごく普通の、食堂の椅子、テーブル、でも、とにかく古い。お皿は、私が幼いころ、これと同じ絵柄のお皿を見た記憶があるが、もう、たぶんどこにも残っていないだろう。そして、そのかすれた絵柄は、とても長く使ってきた証だった。メニューはカレーライスとカツしか覚えていない。カレーライスは今どきのスパイスに凝ったカレーではなく、大量の玉ねぎとカレー粉をじっく炒めた黄色いカレーだった。そして、カツは、肉を丹念にたたき、細挽きパン粉で揚げる、いわゆるカツレツというものだった。フォークもナイフも紙ナプキンで包まれて、昔ながらの西洋料理店といった匂いがした。
市役所庁舎で働いていたころには、帰宅の前に軽くねといいながら、同僚や上司と、カツをつまみに、生ビールの大ジョッキをグイグイやった。
妻は何故か、ここのカレーライスが好きだった。娘夫婦も連れてきてやったことがある。その時、私は仕事がうまくいってなくて、娘たちを前に不機嫌だった。娘婿の話にもつっけんどんで、食べ終わるとすぐ席を立った。その時の妻の悲しそうな目を、今でも私は思い出してしまう。ごめんよ、やさしくなかったね。悲しませるつもりじゃなかったんだ。
やがて、年老いた夫婦が切り盛りしていた店は、どちらかが入院をされて、店をたたんだようだった。もう、廃業して2~3年たつだろうか。エプロンのような白い暖簾をくぐって、西日の差し込む、あのテーブルに置かれた大ジョッキが懐かしい

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