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豊橋 街歩き2 記憶の風景(2)古本屋

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街には、もう立ち止まってしまったり、風景としては消えてしまった、そういった記憶がある。
古本屋のある街は、街の空間の味わいからして、どこか違う。豊橋に古本屋がなくなってどのくらいになるだろう。残念ながらBOOKOFFは私の中の古本屋ではない。それは古本の匂い、積み上げられた茶色い書籍の山、そして、奥の本棚には店主が収集した、貴重な本たちが眠っている、それこそが私の中の古本屋なのだ。特定の分野だが、古本屋は宝を隠した深い深い山のようで、古本屋がある街を歩くと、いつも心が躍る。
昔、豊橋には、古本屋が2軒あった。一つは水上ビルの南隣、いまも建物は残っている。
そして、もう一つは、住吉町の、広小路通りの朝市が開かれるあたり、今はもう駐車場になってしまった。
私は、中学生の頃に、この住吉町の古本屋で、一冊の詩集に巡り合うことができた。中学の教科書で出会った、高田敏子の詩、その言葉の輝きに憧れて、彼女の詩集が欲しいと思った。
雨が降り続ける5月、彼女の詩集を探して、街を歩き回った。いくつかの書店には、新進の詩人の詩集は置いてあっても、出版されてかなりの年月がたっていたその本はなかった。
書店の店員に古本屋に行けばあるかもしれないと聞いて、最後に来たのが、この古本屋だった。しばらく、本棚を探したが、見つからない。店の奥には初老の女性が座っていた。なんとなく高田敏子に雰囲気が似ている。勇気を出して、高田敏子の詩集を探していると話をすると、その女性はにっこりと笑い、奥の本棚の前でしゃがみ込むと、一冊の本を私に差し出した。
月曜日の詩集、セピア色の表紙、中を開くと、白黒の写真と、彼女の言葉が輝いていた。
代金を払って、外に出ると、雨上がりの街に、いつのまにか青空が広がっていた。街路樹の緑が輝き、光に満ちた街に、風はどこまでも、吹きわたっていくようだった。
今でも古本屋のある街が好きだ。昔、豊橋も、そんな街だった。

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