旅行

ひとすじの道⑤

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2020年 11月29日 中部天竜駅~水窪駅(24㎞ 5h)
中部天竜の町は明るい陽光に包まれていた。目の前に流れる川が天竜川だといつ気づいたんだろう。佐久間ダムから流れ出た水は、上流にダムがあるとは思えないほど澄みきっていて、深い山々をぬうように流れていた。ガラスのように透きとおったこの流れが、いつか光り輝く海に出会うなんて、誰が思うだろうか。
ほんの少し足を止めて、対岸へ通じる古い橋の上から、川の流れをじっと見つめてみる。こわばっていた指先が陽光にほぐれ、歩き続けてきた心は山々の上に広がる空を眩しそうに見上げた。
天竜川に出会うまで、自分の心を意識しすぎて、かたくなになっていたかもしれない。東栄駅のちゃちゃカフェのママに、肩をいからせて歩いていたね といわれたっけ、となりに座った赤ちゃんに、微笑むことさえ忘れていた。
やがて、水筒の水を一口含んで、再び歩き出す。切り立った断崖沿いの道で鹿の群れを見送ると、やがて、月並みな言葉だが、時代から取り残されたような集落が現れた。大きな家が山の斜面に沿って続く、ひっそりとたたずむ街道の道に、昔はたくさんの人々が行きかっていたことを思わせる商店の看板たち。
やがて、この集落も、時の流れに飲み込まれていくのだろう。でも、今日は日曜日、集落の全ての人が集まって、ごみ袋を提げ、ごみを拾っている。そう10人くらいのばあちゃんたち、道をゆくばあちゃんたちに声をかけた。おはよう、にいちゃん、どこまでいくの。おはよう、あんた昨日も歩いとったでしょう。なにかが、ゆっくりとゆっくりと溶けていった。
天竜川沿いに続く道は、所々でこのような集落を抱いて、昨日まで、ただ通り過ぎるだけの、よそ者だった自分が、過ぎゆく土地や人々と、ほんの少しだけつながったような気がした。
やがて、道は一度天竜川から離れ、青崩峠に向かう国道152号線を進む。水窪の町は、信濃の国につながる最後の町、本来なら、青崩峠から遠山郷に抜けるのが古来からの由緒正しい道だろうが、早く天竜川に戻りたかった。水窪から山越えをして、旧富山村を目指す。民家も全くない、20㎞の山越えの道、水窪で出会ったおじさんたちに尋ねても、誰も行ったことのない道、JRならトンネルを抜けて一駅、おじさんたちからは,一様にJRを勧められたが、心は山を越えていけと言っている。

コメント

  1. 寺岡知加子 より:

    民家も全く無い、20kmの山越えの道。
    JRなら一駅。

    さて自身だったら、どちらを選ぶんだろう