旅行

バカたちがやってきた ②

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もうだいぶ、月日が過ぎてしまったが、再びバカたちのことを書こうと思う
八ヶ岳の私の山荘に、大学の友人、いわゆるバカたちがやってきたという話だった。
メンバーの主力が来る前に、極めつけのおバカ二人が、一日前にやってきた。
一人は、酒乱のM、大学一年の頃、お酒は好きだけど残念ながらお酒に弱かったMは、私も意識を失った地獄の新歓コンパを乗り越えてから、自らに「毎日2合の日本酒を摂取する」という意味のない課題を課した。そして、みごと、上級生になった頃には、立派な酒乱として、宴会を恐怖の中に陥れていたのであった。卒業後は、何を考えたか、長野県の小学校教員となったが、山奥の小学校に赴任すると、酒を飲んでは村の駐在さんと乱闘したり、村の顔役にからんだりして、きっと思うような飲み仲間ができなかったのであろう。数年で東京に帰っていった。
もう一人のおバカは、現在、失業中のK、これも何を思ったか。証券会社に入社すると、給料の大半をギャンブルと顧客の損失の穴埋めに費やし、特に埼玉の鶴瀬駅前の八百屋の主人にかなりの損失を与えたので、年末の数日間はいつも、その八百屋を手伝っていたという男だ。しかし、結婚をして、二人のお子さんをもうけ、大学まで行かせたということで、奥さんが相当しっかりしていたのか、周囲が心配して手助けしたのか。でも、奥さんとは20年会っていないとのことで、?だらけの男である。
その日、到着時間になっても、二人は一向に姿を見せなかった。突然携帯がなると、予想どおり、道に迷ったという。ナビを使っても迷ういうことはどういうことなのか理解できなかったが、とりあえず電話口のKに、まわりに何があるのかを尋ねてみた。帰ってきた答えは「太陽光パネルがある」「畑がある」「工場がある」「家がある」など、どこにでもある風景を羅列するだけで、この情報だけで私はどうやって彼らの居場所を確認せよというのだ。道路標識を確認するよう伝えると、やがて、彼らがとんでもないあさっての場所にいることが判明した。私たちは大学時代山のサークルで、国土地理院の25,000分の1の地図を駆使し、自分たちがどこにいるのか、たとえ嵐の中でも判断できるよう訓練を受けてきたはずだった。長い年月がそうさせたのか。酒乱と自堕落な生活がそうさせたのか。実に嘆かわしい限りだ。
山荘に着くと、Mは相変わらずの赤ら顔、そして、Kは結構もてたはずなのに、もうその面影は全くなく、どちらかというと歩道橋下の段ボールの家に住んでいるような、そんな雰囲気を醸し出していた。ひとしきり山荘に麻雀の用意がないことを二人に責められたあとで、Kは煙草を取り出し、ライターで火をつけた。
この山荘は禁煙である。また、森と一体となった雰囲気を楽しむために、テレビの音に気を使い、リビングの空間にはチェロやバイオリンの音がいつも響いていた。
二人は、そんな部屋を一瞥し、なんだこれは、といった顔でふんと笑うと、ベランダに出て行き、盛大に煙を吐き出した。
いつのまにかⅯが庭に降りて、カラマツの枝を拾っている。夜になったら、盛大に火を燃やして、そのまわりで、酒を飲みながら山の歌をうたおうという。
山賊じゃないんだからというと、山で火をたくことが、卒業以来の夢だったと、悲しそうな目で訴えてきた。卒業して40年近くなるのに、こいつらといると、卒業したのがつい数か月前に思えてくる。昔のお茶の水のキャンパスにいて、バカ話していた、あの頃のまま、もう何十年も会ってなかったのに。
ほかっておくと、本当に薪を積み上げかねないから、温泉に行こうと二人を誘って、近くの温泉に向かう。山荘の近くには2つの温泉施設がある。一つは原村の少し入浴料が高いが浴槽も洗い場も広くて露天風呂がある樅ノ木の湯、ここのお客は原村一帯の別荘で暮らす金持ちシニアがほとんどで、駐車場はずらりと高級車がならんでいる。もう一つは茅野市営の公営温泉で、安いが、8人も入ればいっぱいの河原の湯、茅野市に家や別荘があれば割引してくれるが、お客は地元のじじ、ばば、なぜか待合室にはビールの自動販売機もある。
当然、割安の温泉へ向かい、かなり先輩のじじたちと温泉につかった。ぽっかぽっかになって、待合室に出ると、3人が3人とも、なぜか缶ビールを握り締めていた。そして、黙ったまま、浴場を後にすると、そろって八ヶ岳農場の牧草地へ向かっていった。夕闇が迫る中で、八ヶ岳の大きな山稜が西から東にかけてずーと続いていた。
その山容を確認すると、3人は山に乾杯するように、ビールを飲み干した。
しばらく、缶を握り締め、山容が闇に沈んでいくのを眺めていたが、やがて酔いがさめると、牧草地をわたる風に少し体が震えるのがわかった。空は青く沈み、山荘を抱いた森は、もう深い深い闇の中だった。
林の向こうのお隣さんの家に明かりがともった。やがて、山荘へと歩きながら、今日は、バカどもにお酒をたんと飲ませて、焚火をたくのを忘れさせよう。そう固く決心した私であった。

コメント

  1. 寺岡知加子 より:

    アハッ、面白すぎる?

    いや、呆れる?

    エヘッ、言い過ぎ?

    題名に合致して る ね!

    ③もあるのかな。

    興味津々。