旅行

ひとすじの道⑦

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2020年 12月12日 伊那小沢~天龍村(平岡)~温田 16㎞ 3h

平岡の町は朝日に輝いて見えた。それは、伊那小沢駅を出発した頃の寒々した雲が去り、山の端から太陽が顔を出したことよりも、そこに住む人々の生きている、その輝きを見ることができたからだろう。龍泉閣というホテルを併設した平岡駅では、元気なおばちゃんたちが、朝市の準備をしていた。

しわくちゃのばあちゃんたちの華やかなおしゃべり、笑い声。軽トラから野菜を下ろすおばちゃんの嬉しそうな顔、「にいちゃん買ってきなよ」と誘われたが、小松菜や大根を持ってこの先歩くわけにはいかない。「何か食べるものないの」と聞くと、大福もちやキノコご飯があるらしいが、「あと1時間待ちな」とのこと、残念ながら今日は時間が限られているので、ここで1時間を使うわけにはいかなかった。「また来るね」といってその賑わいから離れようとすると、「にいちゃん今度は彼女とおいで」と声がかかる。どっとはじける笑い声、まったく、還暦近いおじさんだぞ俺は と思いながらも、じゃあね と手を振って駅を離れる。

町の通りを郵便屋さんのバイクが走って行く、男の子たちが通りを駆けていく、新築の建設現場では金槌の音が響き、高校生だろうか、制服を着た女の子が二人、駅に向かって歩いている。林業が衰退し、悲しいくらい過疎化が進んでいるというが、人は生きている限り、輝けるものだ。そんな町の風景に巡り合えて、少しうれしかった。町を離れると、平岡ダムが川を止め、その向こうには、深い緑のダム湖が続いていた。植林の山から、落葉樹の山へ、風景はうつろい、道を取り囲む山々の中で、目をつぶると 湧き上がるような、萌えあがるような、春の景色が浮き上がる。やがて、天竜川は深いⅤ字渓谷となり、道は鋭い山稜の中腹をたどり、その向こうに続く道は、天空に消えゆくように見えた。天空に消えゆく道を見ていると、ネパールのトレッキングを思い出した。どのくらい前になるだろう、市役所の親しい山仲間と行った、アンナプルナ連山の麓を回るルート。長い長い尾根、ひりひりするほどの青い空、アンナプルナの純白で圧倒的な山容、高山病、ロッジでの大騒ぎ、ゴレパニから向かった丘、ブーンヒルでは三日月刀を持った山賊にも出会った。でも、とっても楽しかった、仲間とともにたどっていった、あの道

天龍川のV字峡谷は、やがて緩やかな山なみに変わり、川沿いに道は下っていった。温田の町は、大きな総合病院や、ドラックストアーがある比較的に大きな町だ。小さな家を改装したようなラーメン屋に入る。今日はここまで、温田の駅から、午後一番の飯田線で豊橋に向かう。穂の国とよはし芸術劇場での、実験舞踊 春の祭典に間に合うように。昼は山里をトレッキング、夜は現代舞踊の溢れるような生命の気配や、湧き上がる旋律に、自分の五感をゆだねる。とても贅沢な一日だ。 きっと心も満足している。

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