2021年 1月10日 信濃大町~木崎湖・海ノ口~信濃大町 15㎞ 5h
朝、降り積もった雪は太陽に照らされ、眩しく光っていた。ホテルを出て駅に向かうと、改札に張り紙があり、信濃大町から北は、雪のため運転を見合わせている と大きく書いてあった。駅員に尋ねても、再開のめどはわからなかった。
このまま突入をして、白馬駅までたどりつければよいが、昨日のように雪に苦戦していると、途中で日没を迎える可能性もあった、そして、その時JRに乗れないとすれば、かなり苦しい展開になる。
とりあえず、木崎湖まで行ってみることにする。普通で1時間の行程だから、何があっても対処できるだろう。
街では、おじさんやおばさんが、みんなして雪かきの真最中だった。もう何日も前から雪を下ろしているようで、歩道の脇には、硬くしまった雪が立ち上がり、足元には一度溶けて今朝、再び凍りついた薄氷が青く光っていた。登山靴に装着した軽アイゼンが気持ちよく氷をつかむ、昨日は2、3回、氷とも知らず足を運び転倒した。今日は万全だ、ロングスパッツだって履いている。
商店街を抜けると、歩道は柔らかな雪で覆われ、少し靴が沈み込むが、明るい日ざしとともに心は軽く、快調に歩くことができている。やがて、木崎湖入口、信号機のある交差点にコンビニがあった。お茶でも買おうと思って近づくと、あっという間に雪の吹き溜まりに、足が絡み取られ、体のほとんどが雪に見えなくなった。雪はどんどん深くなっていった。圧雪してあるところはいいが、それ以外のところは、膝上まで雪が積もっているようだった。
木崎湖の湖畔に続く温泉宿を横目に進むが、スピードは目に見えて落ちていく。やがて雪原が見渡す限り広がる場所に出てきた。ここは雪がなければ、広い湿原が広がる場所、その先には深く鼠色に沈んだ湖面が見える。
この景色は、まるで神様が作ったかのように滑らかで、柔らかい。まるで、粉砂糖をふるいにかけたあとのような繊細さで、表面が覆いつくされている。
その無垢な雪原に、足を踏み入れてみる。なんて贅沢でかけがいのない瞬間だろうか。
それは、いままで経験したことのないほどの邂逅と新たな創造が連続する素晴らしい時で、私はこれを独り占めすることへの、罪悪感すら覚えた。
心は、なによりも満ち足りていたが、こんな状態では、この先白馬までは到底到着できないだろうと思った。海ノ口の駅での張り紙は相変わらず、運転の見合わせを伝えており、ここで先を断念するのが、妥当なようだった。
心を落ち着かせるために、駅の待合室で、コンロをたき、インスタントラーメンを作る。暖かいものを体にゆっくりと入れる。やがて全てをザックにまとめると、今日来た道を引き返し始める。
口惜しいなんて思わなかった。また、次にくればいい。だって、心はこんなに満ち足りているのだから。太陽は雲を払い、木々に厚く積もった雪があちこちで、雪煙をあげて落下しはじめた。もうすぐ、列車は動き出すかもしれなかった。
雪だるま
雪のうえの 雪だるま
ここに、生まれて
出会った
奇跡は
きっと すごいことなんだ
だから
雪のうえの 雪だるま
少しでいいから
あなたのお話聞かせてよ
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